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大人のための時代小説

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山の神 其の弐


さわさわ・・・・
風もないのに、目の前で雑木がざわめいた
弥太郎は正体を見極めようと梢に目をやった・・・・
「ひっ」
次の瞬間、力自慢の弥太郎が、腰を抜かさんばかりの情けない悲鳴を上げた。
まるで何の気配もなしに、手の届くほどのところに
うら若い女が立っていたのだ。

「な・・・な・・・・」
弥太郎の喉が引きつった。
(どこから湧いてきやがった??)
こう近くては弓を引く手も動かない。
むろん人の形をしたものに矢を向けることなどできようか。
ましてや見た目は妙齢の女ときている。
ほんの数歩後ずさりしたが、もはや覚悟するしかなかった。
背中を見せて逃げれば、それこそもっとやべぇことになりそうだ。
マタギの血がそういっている。
これが山の神か?
山の神が女だという話は聞いたことがあった。
しかし、こんなに若いのか?
婆様だとばかり思っていたが・・・
それより俺は木に変えられるのか
いや・・・・あやかしかもしれぬ。
それでなければこんなに美しいものか。
まるで天女のようではないか。
・・・・頭の中で、整理もつかぬことがぐるぐる駆け巡る。
無論天女などというものを見たことがないが、ほかに喩える言葉も知らない。
透けるような肌、うっすらと紅を帯びて野いちごのように輝やく唇
無造作に結い上げた長い黒髪
弥太郎が今まで見たどの女とも違っている。

細い折れそうなうなじや、華奢な腰つきを見る限り
人をどうにかしようという風情には到底見えない。
しかし微動だにせぬ表情には威厳すら感じられ、やはり纏う空気は普通の娘とはまったく異質のものだ。
弥太郎の瞳孔は大きく広がったまま目の前の女に釘付けだ。。
だが女は弥太郎を見ていない。
いや弥太郎のほうを向いているが、その視線が弥太郎のそれと交わらない。
弥太郎を木として数えようとしているのだろうか。
唐突に女の手が弥太郎の肩にかかった。
・・・避けられなかった。
弥太郎の足がとたんに重くなり、みるみる根が生え地面とつながり始めた。
腑抜けていた弥太郎がわれに返った。
「ま・・・まってくれ」
弥太郎は必死の形相で目の前の女に語りかけた。
もはや山の神であることは疑う余地もなかった。
「ぬしが、山の神なら・・・」
弥太郎の必死の言葉に肩にかかった手がわずかに反応したように見えた。
地面に伸び始めていた弥太郎の根が一瞬止まった。

「ぬしが山の神なら、俺はぬしに貢物を持ってきた」
弥太郎は声が震えぬように言葉を区切った。
「俺は、ぬしの好物を持ってきた。
もし気に入れば、ぬしに捧げたい。
・・・・気に入らなければ、俺を木に変えてくれ」

山の神 その参へ

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