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大人のための時代小説

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山の神 其の参

まだ狩りも一人前にしていない。
嫁ももらっていない。
俺はまだ男として何一つ成していない。
ここで死ぬわけには行かないのだ。
弥太郎は助かりたい一心で浅い経験を総増員して考えをめぐらせた。
そうしていつだったか酒の席で爺様が話していたことを思い出したのだ。

「山の神はよぉ、好物が蛇(ぐちなわ)なのさ」
「食うのかい?」
「いんや、挿れいるんだ」
「どこへ?」
「・・・山の神はおなごだからよ
 女陰(ほと)にきまっとらぁ」
爺様の野卑な笑いに若い衆たちが色めきたった。
「か・・・咬まれねぇのか?」
「ばかだな、おめぇは。」
「それじゃ、俺らが行ったら喜ばれるな」
「馬鹿こけ、ミミズはよろこばねぇよ。おおぐちなわが好物なんだよ
おめぇらのじゃ、山神様の怒りに触れて、そこいらの茸にされちまわぁ」
爺様の言葉にみながどっと笑った。

あれは、酒に席のたわごとだったのだろうか・・・
目の前にいる山の神は確かにおなごの形をしている。
何もしねぇでここで木になるよりは、何か試してみたほうが良いに決まっている。
それに・・・・・。
弥太郎の視線は山の神の胸の辺りから口元を往復する。
神の齢は判らないが、どう見たって年頃の娘にしか見えない。
(山神でないなら俺は・・・・)
一瞬の躊躇の後、意を決して弥太郎が顔を上げた。

「俺は・・・・、山の神に俺のぐちなわを差し上げたい。
俺はぐちなわを献上するためにここに来たのだ」



山の神 その四へ img005_20140511201603e2c.jpg