2ntブログ

大人のための時代小説

Home > スポンサー広告 > スポンサーサイトHome > HOME: 目次があります > 山の神 其の四

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
山の神 其の四

「ぐちなわを?」
山の神がはじめて口を開いた。
鈴の音のような、心地よい声だ。
しかし、小娘の軽やかな声とは違う。
気圧されるような威厳を感じる。
(やはり神なのだ・・・)
改めてそう思う弥太郎だった。しかし悠長に感心している場合ではない。
弥太郎の片足はすでに地中に根を張り動けない。
このままで命乞いをしても、にべもなくあしらわれるだろう。

「俺は、村で一番のぐちなわ持ちである。
そこで、山の神にそれを・・・・
それを味わってほしくてやってきた。
今日、木を数える日だからぬしに出逢えるときいてやってきた。」

吉と出るか凶と出るかわからない。弥太郎は大きな賭けに出た。
もはや後には引けない。
よくこんなでたらめが言えたと自分でも感心するが、ほんの少しの真実もある。
実際弥太郎の一物は、村一番には違いなかった。
筆おろしの女郎にも褒められたことがある。
ただ、この状況で役に立つのか、山神が相手にしてくれるのかが全くわからない。
怒りに触れて一気にここで根を生やしてしまうかもしれないのだ。
棺おけに片足突っ込んでいるという言い回しがあるが
弥太郎は文字通り地面に片足を突っ込んでおり
そうしてやり方如何では今まさに人としての命を奪われようそしているのだ。
だが、まだ弥太郎の片足以外は人間のままだ。

「品定めを」
弥太郎は山神に向かって頭を下げた。

山の神 其の五へ