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大人のための時代小説

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山の神 其の九

昼なお薄暗い森に、やがて日の暮れが訪れた。
木漏れ日にきらめいていた肌はもうはっきりとは見えない。
だが、繋がったところからは相変わらず樹液が迸り、濡れた木通は男を離そうとはしない。
山の神の体はまだ火照り、滾っているようだ。
森から力を与えられた弥太郎は、もう壊れた玩具の様に腰を振り続ける。
それが自分の意志なのか、森の意志なのか、はたまた山の神に操られているのか
弥太郎にさえもわからなくなっていた。
ただ、抗いがたい快感がぐちなわにまとわりつき
そこから逃れることなどできぬこと・・・
弥太郎は次第に人であることをあきらめ始めた。
しかし、果ててはまた滾る繰り返しの中でわずかな希望を捨てたわけではなかった。

各々の山を守っている山の神が
一年に一度、自分の山の木を数える。
いわば、縄張りの確認だ。
その日、一本でも多く自分の山の木を数えようとして、入ってきた人間も木にしてしまうという。
弥太郎の地方では皆が知っている「山の日」だ。

山の神はその領分において一人きりなのだ。
神といえども女ならば、さぞかしさびしくもあろう。
現にこのように欲している。
人間であるおれが、神さんを満足させられるとは思えないが
時々もれるこのよがり声は本物に聞こえる。
神さんも気持ちいいに違いない。
森が力をくれるなら・・・
このままどうせ助からないのなら・・・・

夜気が肌に刺さり始めた。
冬将軍到来前の山奥に火もなく人間がいるなど、本来ならありえないことだった。

脚をとられている弥太郎がここから逃げることなどはできない。・・・しかし・・・
どうせ助からないのなら・・・・
弥太郎は意を決して山の神の腰にしっかりと掻きつき渾身の力で体を沈めた。
「・・・・・・ん・・んん」
山の神の鈴のようなよがり声が響くその瞬間
繋がったままの体を後ろ抱きに抱き起こし、ぴったりと自分の体に引き寄せたのだ。
思いもよらない行動に一瞬呆気にとられた山の神の顔をぐいっと引き寄せ、大胆にもその花びらのような唇を吸い始めた。

驚いたのは山の神だった。

                    山の神 其の十へ続く

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