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山の神 その十一
あたりはすっかり闇に包まれ、様子は見えないが、
山の神が気を遣ったのははっきりと感じることができた。
挿れたなりだったぐちなわが、初めて裂け目からずるりと抜けおちた。
生々しい樹液が、柔らかい尻の上に弥太郎の放った精の青臭さともに滴り落ちた。
肩で息をしながら身を起こそうとすると、
ふいに弥太郎を繋いでいた脚が軽くなった。
足を挙げると根が、ずるずると芋の蔓のように地表に引き出されてきた。
しかし、まだ地面の奥深く根は繋がったままだ。
飼い犬が、つないだ紐をほんの少し延ばされたようなものだった。
それでも一足動かせると、できることは格段に増えた。
弥太郎はうつ伏した山の神を抱き上げ、自分のほうに向け分厚い胸に抱きよせた。
山の神はなされるがままに身を預けてきた。
闇に紛れその表情が見えないのが残念でならない。
弥太郎は赤子を抱くようにやわらかくその身を腕に抱き、髪をなでた。
なぜ、そうしたのかは弥太郎にもわからない。
ただ、そうすることを許された気がしたのだ。
緩まった根から、森はもはや力を送ってこない。
すでに精を尽くした弥太郎のぐちなわは今はじめてうな垂れることを許されたようだ。
その安堵感からか、弥太郎は不意に眠気に襲われた。
もはや抗いようのない泥のような眠りに、山の神を抱いたまま落ちていった。
どれくらい眠ったのだろう。
小さな鳥のさえずりと、刺さるような寒さで弥太郎は目を覚ました。
深い梢から白々と朝日が差し込んできた。
我に返り辺りを見回すが、誰もいない。
手の中に柔らかな感触だけ残して山の神は姿を消していた。
まだはっきりしない頭で記憶をたどる。
「脚は・・・」
弥太郎の脚に生えた根は消え、地面に孔の痕跡もない。
命が助かった喜びよりも
空虚な喪失感で暫し呆然となった。
「俺は・・・・夢を見ていたのか・・・・」
山の神 其の十二へ続く